桔梗の花咲く庭
第4話
「お加減はいかがですか」
いつもよりずっと早い時間に、晋太郎さんはやってきた。
自分で押し入れを開けている。
「あ、お布団を敷きますか?」
「あなたは横になっていなさい」
いつもより、布団の位置がずれる。
中央に敷かれてしまった私の布団のせいで、晋太郎さんのは部屋の隅に追いやられてしまった。
「動かしますか?」
起き上がろうと思うけど、体が重い。
背中を向けているこの人からは、返事がない。
「あなたが嫌じゃないのなら、私はこのままでよいです」
いつものように間に衝立を立てるとしたら、本当に晋太郎さんの布団は、廊下の襖と接することになってしまう。
だけど、そんな心配もよそに、この人は衝立を立てぬままさっさとそこに寝転がってしまった。
「そういえば初めてですね。あなたのお顔を見ながら、眠るのは」
枕にのったお顔がこちらを向いた。
そうでなくても気分が悪いのに、あんまり見ないでほしい。
「恥ずかしいので、やめてください……」
体に掛ける布団代わり夜着がないから、隠れるところがない。
衝立もない。
目を開ければ見えるこの人に、ドキドキしている。
背を向けてしまうのもわるいような気がして、見えなくなるようぎゅっと目を閉じた。
「寝苦しいのなら、襖を開けておきますか?」
「虫の入る方が嫌です」
そう言うと、晋太郎さんは笑った。
「では、このままにしておきましょう。気分が悪くなったら、いつでも起こしてください」
その人は他にもなんだかんだと世話を焼いてから、ようやくごそごそと動いて背を向けた。
少しほっとする。
そういえばこうやって、落ち着いてこの人の寝姿を眺めるのも初めてのような気がする。
形のよい後頭部から耳たぶ、すっと伸びた首筋のふもとに、大きな肩が広がる。
ため息が漏れた。
まだ少し胸焼けがする。
寝返りを打って、私も目を閉じた。
翌朝目を覚ますと、その人はまだ眠っていた。
襖を開けて、外の空気と入れ替える。
昇ったばかりの朝日がさっと差し込んだ。
ごそごそと衣ずれが聞こえる。
「あ、まぶしかったです?」
「いえ……。もう、お加減はよろしいのですか?」
まだ目の覚めきらぬかすれた声でそう言って、ごろりと背を向けた。
幼い子供のようなその仕草に、つい微笑む。
「えぇ、すっかりよくなりました」
またすぐに寝息が聞こえてきた。
のぞき込んでみたら、本当に眠っているようだ。
腕を組んだまま動かないその姿に、もう一度微笑む。
土間へと向かった。
いつもよりずっと早い時間に、晋太郎さんはやってきた。
自分で押し入れを開けている。
「あ、お布団を敷きますか?」
「あなたは横になっていなさい」
いつもより、布団の位置がずれる。
中央に敷かれてしまった私の布団のせいで、晋太郎さんのは部屋の隅に追いやられてしまった。
「動かしますか?」
起き上がろうと思うけど、体が重い。
背中を向けているこの人からは、返事がない。
「あなたが嫌じゃないのなら、私はこのままでよいです」
いつものように間に衝立を立てるとしたら、本当に晋太郎さんの布団は、廊下の襖と接することになってしまう。
だけど、そんな心配もよそに、この人は衝立を立てぬままさっさとそこに寝転がってしまった。
「そういえば初めてですね。あなたのお顔を見ながら、眠るのは」
枕にのったお顔がこちらを向いた。
そうでなくても気分が悪いのに、あんまり見ないでほしい。
「恥ずかしいので、やめてください……」
体に掛ける布団代わり夜着がないから、隠れるところがない。
衝立もない。
目を開ければ見えるこの人に、ドキドキしている。
背を向けてしまうのもわるいような気がして、見えなくなるようぎゅっと目を閉じた。
「寝苦しいのなら、襖を開けておきますか?」
「虫の入る方が嫌です」
そう言うと、晋太郎さんは笑った。
「では、このままにしておきましょう。気分が悪くなったら、いつでも起こしてください」
その人は他にもなんだかんだと世話を焼いてから、ようやくごそごそと動いて背を向けた。
少しほっとする。
そういえばこうやって、落ち着いてこの人の寝姿を眺めるのも初めてのような気がする。
形のよい後頭部から耳たぶ、すっと伸びた首筋のふもとに、大きな肩が広がる。
ため息が漏れた。
まだ少し胸焼けがする。
寝返りを打って、私も目を閉じた。
翌朝目を覚ますと、その人はまだ眠っていた。
襖を開けて、外の空気と入れ替える。
昇ったばかりの朝日がさっと差し込んだ。
ごそごそと衣ずれが聞こえる。
「あ、まぶしかったです?」
「いえ……。もう、お加減はよろしいのですか?」
まだ目の覚めきらぬかすれた声でそう言って、ごろりと背を向けた。
幼い子供のようなその仕草に、つい微笑む。
「えぇ、すっかりよくなりました」
またすぐに寝息が聞こえてきた。
のぞき込んでみたら、本当に眠っているようだ。
腕を組んだまま動かないその姿に、もう一度微笑む。
土間へと向かった。