桔梗の花咲く庭
第13章

第1話

夏の盛りといえども、夜明け前は肌寒い。

箪笥から取り出した浴衣にくるまって、昇る朝日に目を覚ました。

起き出した鳥たちのさえずりが賑やかすぎる。

「まだ手が進んでおられぬではないですか」

目をこすり碁盤を見た。

「お静かになさい。いま考えている真っ最中なのです」

どうしたって、この情勢はひっくり返りそうにないのだけれど。

ようやく打ったこの人の一手に、すぐ次の手を打つ。

晋太郎さんはまた考え込んでしまった。

土間から煙が香り立つ。

「そろそろ朝餉の支度に向かわねばなりません」

「……。いってらっしゃい」

昨晩に晋太郎さんの立てた板戸を、ガタガタと開けて片付ける。

当の本人はまだ碁盤とにらめっこをしていた。

土間へ向かう。

「おはようございます」

先に来ていた義母に恐る恐る声をかけた。

「おはよう。よく眠れましたか?」

義母は茄子を切り、出汁をとった鍋に入れた。

私はすぐに味噌の壺を持ってくる。

「えぇ、少しは」

さじですくい、ゆっくりとそれを溶いた。

「嫁入り前に、志乃さんは何を学んで来たのです?」

「女子の往来物ですか? 読本は苦手で……」

本はそれなりに読んできた。

好きなものも苦手なものも、色々ある。

嫁入り前の心得の本だって、先生をつけられ急遽教わった。

「教科書通りになど、生きてはいけませぬ」

お義母さまは盛大なため息をつく。

「まぁ、訓戒や教えなどというものは、理想でしかないと確かでございますけど!」

「私は、よき嫁ではございませぬか?」

互いに目が合う。

義母はお椀を手に取った。

「そうとは申しておりませぬ」

そこへ出来たばかりの味噌汁を、順番によそっていった。

「悪いのは全て晋太郎です。何もかも、なんにも出来ないあの子が悪い」

「晋太郎さんは、とてもよくしてくれております」

そう言ったら、義母は笑った。

「そうね。あなたにそう言ってもらえて、私も安心したわ。さ、膳を運んできてちょうだい。もう忘れましょ。確かに私も悪かったわ」

いつも食事をする部屋にそれを並べ終えてから、奥の部屋へ向かった。

のぞくと義父までが碁盤の前に座っている。
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