桔梗の花咲く庭
第2話
「あぁ、やめじゃやめじゃあ!」
突然、晋太郎さんは並んでいた碁石をかき乱した。
「これ、何をする」
義父はそんな晋太郎さんに対して、怒っているのか笑っているのか、ここからでは分からない。
「父上が余計な手を加えるので、志乃さんとの続きが出来なくなりました!」
「何を言う、とっくに勝負は決まっておったわ」
「あの……朝餉の支度が出来ました」
板戸の影から中をのぞく。
二人は驚いたようにビクリとしてから、こちらを振り返った。
「これはこれは、志乃どの」
義父に手招きされ、その前に座る。
コホンと一つ、咳払いをされた。
「そう言えばそなたのお父上、岡田宗治どのは、大変な囲碁の名手と名高いお方。もしや志乃どのも、そのお父上から手ほどきを受けられたか?」
「えぇ、暇の相手に打っておりました。いつも兄と迷惑していたものです」
「ほほう、兄の宗太どのも?」
「はい」
「なるほどなるほど」
お義父さまはそのまま立ち上がると、部屋を出て行く。
「朝餉の支度ができま……」
「志乃さん!」
急な晋太郎さんの大声に、びっくりする。
「父が勝手に石を動かしてしまったので、この勝負は無効となってしまいました」
「はぁ」
「後日改めて再試合を申し込みたいのだが、よろしいか!」
「えぇ、かしこまりました」
食事を始めると、その人は勢いよくご飯をかき込む。
「これ晋太郎、行儀の悪い」
お義父さまからそう言われても、気にかける様子もない。
食事を終えると、すぐに出て行ってしまう。
義母が私に話しかけてきた。
「昨夜はあれから、二人で何をしていたの?」
「特になにも……」
とは答えたものの、ほとんど寝ないで、続けて三局も打っていたのだ。
不意に眠気が襲う。
あくびが出た。
「……ま、いいわ。そうね、うん、特にすることもないし……。そうね、そんなことを、私が聞くものではなかったわよね」
義母は落ち着かない様子で、そわそわとしている。
「ま、今日は、あなたもいいわ。一日ゆっくりしておいでなさい」
「はい」
義母の言動は、時に不思議だ。
自分の部屋へ戻ろうとして、ふと足を止めた。
奥の部屋へ向かう。
なぜだか今は、その行為に何の抵抗も感じない。
夏でも涼しい廊下を進んでゆく。
突然、晋太郎さんは並んでいた碁石をかき乱した。
「これ、何をする」
義父はそんな晋太郎さんに対して、怒っているのか笑っているのか、ここからでは分からない。
「父上が余計な手を加えるので、志乃さんとの続きが出来なくなりました!」
「何を言う、とっくに勝負は決まっておったわ」
「あの……朝餉の支度が出来ました」
板戸の影から中をのぞく。
二人は驚いたようにビクリとしてから、こちらを振り返った。
「これはこれは、志乃どの」
義父に手招きされ、その前に座る。
コホンと一つ、咳払いをされた。
「そう言えばそなたのお父上、岡田宗治どのは、大変な囲碁の名手と名高いお方。もしや志乃どのも、そのお父上から手ほどきを受けられたか?」
「えぇ、暇の相手に打っておりました。いつも兄と迷惑していたものです」
「ほほう、兄の宗太どのも?」
「はい」
「なるほどなるほど」
お義父さまはそのまま立ち上がると、部屋を出て行く。
「朝餉の支度ができま……」
「志乃さん!」
急な晋太郎さんの大声に、びっくりする。
「父が勝手に石を動かしてしまったので、この勝負は無効となってしまいました」
「はぁ」
「後日改めて再試合を申し込みたいのだが、よろしいか!」
「えぇ、かしこまりました」
食事を始めると、その人は勢いよくご飯をかき込む。
「これ晋太郎、行儀の悪い」
お義父さまからそう言われても、気にかける様子もない。
食事を終えると、すぐに出て行ってしまう。
義母が私に話しかけてきた。
「昨夜はあれから、二人で何をしていたの?」
「特になにも……」
とは答えたものの、ほとんど寝ないで、続けて三局も打っていたのだ。
不意に眠気が襲う。
あくびが出た。
「……ま、いいわ。そうね、うん、特にすることもないし……。そうね、そんなことを、私が聞くものではなかったわよね」
義母は落ち着かない様子で、そわそわとしている。
「ま、今日は、あなたもいいわ。一日ゆっくりしておいでなさい」
「はい」
義母の言動は、時に不思議だ。
自分の部屋へ戻ろうとして、ふと足を止めた。
奥の部屋へ向かう。
なぜだか今は、その行為に何の抵抗も感じない。
夏でも涼しい廊下を進んでゆく。