桔梗の花咲く庭
第4話
大通りに出て、ようやく歩みを緩めた。
乱れた息を整える。
一人歩きには慣れている。
すぐに人混みに紛れた。
これはどんな世の巡り合わせなのだろう。
お天道さまのなさることは、いつも不思議だ。
手にした巾着には何も入っていない。
手ぶらで会いに行くわけにもいかないから、何か買って行かないと。
ふと目に入った店先に、金平糖があった。
これならあの人に贈るにも、恥ずかしくないかもしれない。
気持ちばかりのそれを買い求めると、また歩き出す。
その時の心細さを救ってくれたのは、あの人だった。
私はここで初めて恋に落ちた。
うめと二人、道行く人に尋ねて歩いた。
この辺りだということは分かっていたが、確かな場所は知らない。
大きな縁日が開かれる前の、そわそわとした町並み。
誰に尋ねてもはっきりとした返事は得られず、あの橋のたもとでしゃがみ込み、途方に暮れた。
数日後に控えた祭りの備えに参道沿いの店はどこも忙しくて、仕入れたたくさんの品々は、荷車にのせられ軒先へと運ばれてゆく。
提灯、のぼり旗、吹き流し。
甘い香りと醤油の香り、人いきれ。
誰もが忙しくて、わくわくして、まもなく訪れる大きな祭りを前に活気づいていた。
「坂本晋太郎に、どのようなご用件か」
疲れ果てうずくまった私たちに、一人のお侍さまが声をかけてきた。
「文を届けるよう、言いつけられております」
その人はじっと私とうめを見下ろした。
届けておいてやろうというのを、頑なに断る。
「主人から必ず、必ずご本人に直接届けよと仰せつかっております!」
嫁入りの決まった娘が、輿入れ前にそのお相手をのぞきに行くなど、ありえないこと。
決してこちらの正体を知られるわけにはいかない。
「晋太郎どのは、今は屋敷にはおられぬ」
「ではどこに?」
「妙善寺へおいでだ」
辺りを見渡す。
この近辺に寺のありそうなところはない。
だけど、知らぬお侍の屋敷を探し出すより、寺への道を聞く方が遙かに尋ねやすいだろう。
心許ないが、その言葉を信じるより他にない。
乱れた息を整える。
一人歩きには慣れている。
すぐに人混みに紛れた。
これはどんな世の巡り合わせなのだろう。
お天道さまのなさることは、いつも不思議だ。
手にした巾着には何も入っていない。
手ぶらで会いに行くわけにもいかないから、何か買って行かないと。
ふと目に入った店先に、金平糖があった。
これならあの人に贈るにも、恥ずかしくないかもしれない。
気持ちばかりのそれを買い求めると、また歩き出す。
その時の心細さを救ってくれたのは、あの人だった。
私はここで初めて恋に落ちた。
うめと二人、道行く人に尋ねて歩いた。
この辺りだということは分かっていたが、確かな場所は知らない。
大きな縁日が開かれる前の、そわそわとした町並み。
誰に尋ねてもはっきりとした返事は得られず、あの橋のたもとでしゃがみ込み、途方に暮れた。
数日後に控えた祭りの備えに参道沿いの店はどこも忙しくて、仕入れたたくさんの品々は、荷車にのせられ軒先へと運ばれてゆく。
提灯、のぼり旗、吹き流し。
甘い香りと醤油の香り、人いきれ。
誰もが忙しくて、わくわくして、まもなく訪れる大きな祭りを前に活気づいていた。
「坂本晋太郎に、どのようなご用件か」
疲れ果てうずくまった私たちに、一人のお侍さまが声をかけてきた。
「文を届けるよう、言いつけられております」
その人はじっと私とうめを見下ろした。
届けておいてやろうというのを、頑なに断る。
「主人から必ず、必ずご本人に直接届けよと仰せつかっております!」
嫁入りの決まった娘が、輿入れ前にそのお相手をのぞきに行くなど、ありえないこと。
決してこちらの正体を知られるわけにはいかない。
「晋太郎どのは、今は屋敷にはおられぬ」
「ではどこに?」
「妙善寺へおいでだ」
辺りを見渡す。
この近辺に寺のありそうなところはない。
だけど、知らぬお侍の屋敷を探し出すより、寺への道を聞く方が遙かに尋ねやすいだろう。
心許ないが、その言葉を信じるより他にない。