「好き」にも TPOが必要
「あのとき、半信半疑だったんですけどね」
 ソファに投げられたリモコンで録画番組をさがす。
「半信半疑どころか100%疑ってたでしょ」
 呆れたように後ろから腕を回す彼に、苦笑いで誤魔化す。

「いまも好き?」もちろん、そう返すとともに唇が塞がれる。小さく響いたリップ音はまだ恥ずかしくて、抱きしめているクッションに力を入れた。

「……もうそろそろ、許してくれてもよくないですか?」「え、何のこと?」
「一回断ったじゃないですか、それの仕返しだと……」「違うけど」

「へ?」間抜けな声が漏れる。何度も確認されるのはあの日窓の外を見て飲み込んだ言葉のせいだと、そう数ヶ月思っていたのに。混乱と困惑混じりに話せば、全然違うとばっさり言われた。

 まさかずっと勘違いしてたとは、と気まずそうな声を出す彼。ずっと張っていた糸が切れたように、だらりと力が抜けた。

「じゃあ、」とついでに気になる疑問をぶつける。
「なんでいつも好きかどうか聞くんです?」
 めずらしく行き場に迷うような、そんな視線が交差する。言いづらそうに困った瞳を向けられても、察しようがなかった。

「好きな子に、好きって言って欲しくて何か悪い?」
 やけに強気な声が、しぼんでいく。
 背けられた顔は見えないけれど髪の間から覗く耳は紅く染まっていて、喉から変な声が出そうだった。

 ぎゅっと締め付けられる胸は、愛によるもの。
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