京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「それで、君は自分の所持品とかはなかった?」


診察室へ入るとベッドにドカッと腰をおろし、足を組んで質問された。


そこって患者さんようのベッドなんじゃ。


そう思って戸惑っていると、後ろから純一が「君はここに座って」と、診察用の椅子を差し出してくれた。


純一はそのまま隣に立っている。


「所持品はええっと……」


そう言えば見ていなかったと思い、スカートのポケットをまさぐる。


中から出てきたのはピンク色のスマホと財布だ。


「なぁんだあるじゃないか。純一、それくらい調べておけよな」


「うるさい。こっちも焦ってたんだよ」


自分のせいで喧嘩になるのではないかと焦っていると、純一が立ち上がって近づいてきた。


「スマホの暗証番号は覚えてる?」


しばらく考えてみたけれど、浮かんでくる番号はなかった。


次に指紋認証をしてみたけれど、そもそも設定していなかったようでログインできない。


「となると、後は財布の中を確認したいんだけど、いいかな?」


「もちろんです」


むしろそのくらいのこと自分でしてくるべきだった。


薄茶色の長財布を開けてみるとそこに入っていたのは現金1万円と、キャッシュカード。それに交通系カードだけだった。


保険証や運転免許は入っていない。
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