京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
純一はそう言ってため息を吐き出した。


小学生の約束なんてそんなもんだろうと春菜は思う。


しかし純一にとってはとても大切な約束だったようで、来る日も来る日も彼女からの手紙を待ち続けた。


『それで、10年くらい経過したときについに来たんです』


『彼女からの手紙ですか?』


春菜は驚いて聞いた。


しかし、純一は左右に首を振って『いいえ、ハガキでした』と言った。


『結婚しましたという報告でした』


ガックリとうなだれて純一は言った。


『ハガキの写真には僕の知らない男性と、赤ん坊を抱いている彼女の姿がありました』


『それほど長く待っていたのなら、ショックだったでしょう』


そんな女性はまだ純一の心の中にいるのだろうかと不安になった。


『えぇ。最初はショックでした。だけど日が経ってもう1度ハガキを見た時に彼女は誰だろうって思ったんです。当然ですよね。もうずっと会っていないから、僕の知っている彼女はどこにもいなかっ
た。いたとしても、その面影を探すこともできなくなっていたんです』


すると不思議と胸の痛みは取れていったそうだ。
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