京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
『今回もあなたが戻って来ずに、僕の中であなたの存在が消えていってしまうことが怖かった』


それで、あんな情熱的に抱きしめられたのだ。


『私はずっとここにいます。そのつもりで戻ってきました』


純一の妻になるため、松尾旅館の若女将となるために。


純一はようやく安堵したように微笑むと、たもとから小さな箱を取り出した。


『春菜さん。僕と結婚してください』


開けられた箱の中には赤く輝くルビーの指輪が入っていた。


春菜は感激で言葉が出ず、喉の奥が狭まるのを感じた。


『春菜さん?』


問われて、どうにか『はい』と返事をする。


その指輪をはめられた瞬間、春菜の目から大粒のダイヤのような涙が流れたのだった。
< 123 / 125 >

この作品をシェア

pagetop