京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「ふむ、これだけか」


飯田が顎に手を当てて考え込む。


キャッシュカードに書かれいていた名前はタカハシ ハルナ。


これが自分の名前だろうか?


「自分の漢字を思い出せますか?」


純一に聞かれてハルナは首をかしげる。


春菜なのか、春名なのか、はたまた全く違う漢字なのか検討もつかない。


「ごめんなさい、思い出せません」


落ち込んでそう言うと純一は優しく微笑んだ。


「大丈夫ですよ。じゃあ仮に高橋春菜さんということにしておきませんか? 決めておけばこちらも呼びやすいですし」


春菜は素直に頷いた。


ここまでしてくれている純一に異論なんてない。


「じゃ、さっそく検査しよっか。まずはレントゲン撮るから、隣の部屋に移動してね」


飯田はそう言うと、鼻歌まじりに準備を始めたのだった。
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