京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
元の自分を知りたくない。


そんな強い拒絶反応だ。


自然と呼吸が荒くなり、汗が吹き出してくる。


次第に座っていることも困難になってきたとき「大丈夫?」と飯田さんに声をかけられてベッドへ移動した。


横になると少し楽になって大きく呼吸を繰り返す。


自分でもわからないけれど家に戻りたくない、思い出したくないことがあるみたいだ。


「住むところなら僕の旅館に来ればいいので、無理はしないでください」


「そんな。ここまでしてもらっただけで十分です」


慌ててそう言うが純一は首を立てに振ってくれなかった。


「ダメです。これは僕からの命令です。部屋はいくらでも空いているので、僕の旅館に泊まりなさい」


きつい口調で言われたらそれ以上反論できなくなってしまう。


困って飯田へ視線を向けると、飯田は苦笑いを浮かべてウインクしてきたのだった。
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