京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
☆☆☆

昨日があれほどうまくいった業務が今日はてんでダメだった。


つい昨日のことを思い出してボーっとしてしまい、集中することができない。


1度聞いたお客様の名前をすぐに忘れて何度も聞いてしまったり、キーを渡し忘れてしまったり。


そのたびに美鈴さんから鋭い視線を向けられて、居場所がなくなる思いだった。


でもそれもこれも全部自分のせい。


自分のミスだ。


落ち込んだまま仕事が終わる時間までフロントに立ち、純一に今日1日の失態を謝ろうと思ったときだった。


「春菜さん、ちょっと」


と、ヒロミに呼び止められた。


「はい」


「あなた今日一体何をしたの?」


今日の失態はヒロミの耳にも入っていたようで、春菜は身を縮こませてしまう。


「ごめんなさい。沢山ミスをしてしまって……」


「ミスってなに? 今、男性のお客様が若旦那にクレームを入れているのよ」


その言葉に春菜は勢いよく顔を上げた。


「え、クレームってどうして純一さんに? 私のミスだったんですよね?」


混乱してそう言うと、ヒロミさんは呆れたようにため息を吐き出した。


「従業員のミスの尻拭いだってするに決まっているでしょう」


そんな!
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