京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
☆☆☆

それからの春菜は清掃を中心とした仕事内容に切り替えられていた。


なにかわからないこと、トラブルがあればすぐに他の従業に連絡することを約束させられて。


初日にあれだけの動きができたのが自分での不思議だった。


あれはたんなるまぐれで、自分は清掃員でも旅館従業員でもなかったのかもしれないと、今では思っている。


お客様がチェックアウトした後客間に入り、窓を開けて清掃を開始する。


部屋で休まれているお客様もいるから、できるだけ掃除機などは使わない。


家具は二度拭きで、花瓶に活けられている花が枯れていないかどうかチェックする。


清掃をしながらもお客様の忘れ物がないかどうか確認し、更に宿帳に抱えていることも読んでおく。


なにかヒントになりそうなことが書かれていたら、それもちゃんと報告する。


そんなことをシている間にあっという間に仕事が終わる時間になった。


どうにかミスをしなかったことを安堵しつつ、「疲れたぁ」と声に出して畳んである布団にダイブする。


これがベッドだったらこのまま目を閉じて眠ることができるのに。


そんなことを思って着替えもせずにダラダラ過ごしていると、ノックオンが聞こえてきた。


慌てて起き上がって着物を直し、襖を開ける。


そこに立っていたのは純一だった。
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