京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
大崎様からクレームが入っていこうなんだか気まずくて、こうして直接顔をいるのは数日ぶりのことだった。


それくらい春菜は純一のことを意識するようになっていた。


「ごめんなさい。もしかして着替えの途中でしたか?」


そう言われて自分の姿を見下ろし、顔が熱くなる。


「い、いえ、大丈夫です」


「そうですか。久しぶりに外を歩いてみてはどうかと思いまして、お誘いにきました」


そう言われて思い出すのは夜鳴きそばだ。


醤油ベースのスープの味が蘇ってきて、思わず唾を飲み込んでしまう。


そんな色気のないことでどうするのと自分に言い聞かせてから、春菜は「もちろんです」と、頷いた。


「よかった。では、準備ができたらフロントへ来てください」
< 48 / 125 >

この作品をシェア

pagetop