京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「怒っていないんですか?」


大崎様からクレームを受けたあとのそっけない態度を思い出して聞く。


あの時チクリと痛んだ胸の痛みも同時に思い出す。


「怒る?」


純一が驚いて目を丸くしている。


「だって、お客様からのクレームなんて入っちゃって……」


「あぁ、大崎様ですか? あのお客様は毎回ひとつはクレームを入れていかれるんです」


「え!?」


今度は春菜が驚いて目を見開く番だった。


「でもそれは当旅館のためなんです。しっかりと宿泊して、よくない部分をちゃんと伝えていただく。そうすればこちらも対処法が見つかるでしょう?」


そう言われて、大崎様の提案でネームに初心者マークを印刷することになったのを思い出した。


クレームをただ嫌な客だとあしらわずにしっかりと対応しているため、大崎様も何度も松尾旅館を使ってくれているのだとやっと理解した。


「あの時冷たいような態度になったのは僕の責任です。勘違いさせてしまってごめんなさい」


純一が申し訳なさそうに頭をさげる。


「大崎様からのクレームは大切なものなので、すぐに頭の中でどうすればいいか考えていて、つい」


それで春菜への態度がそっけなくなってしまったようだ。


そうとわかるととたんに肩の力がぬけていく。
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