京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
恋人
ずっと繋がれていた手は松尾旅館に入る前に離されてしまって、なんとなく物悲しいような気分になった。
裏口から中へ入るタイミングでこちらへ駆け寄ってくる足音が聞こえてきて、春菜と純一は同時に立ち止まり、振り向いていた。
「純一、八百屋さんから果物もらったんだよ」
大きなかごを両手で抱えて小走りでやってきたのは純一と同い年くらいに見える女性だった。
淡いピンク色の着物が月に照らし出され、その着物には純一の着物と同じような家紋が入れられている。
「皐月」
純一が声をかけると皐月と呼ばれたその人は春菜たちの前で足を止めた。
「はいこれ、おすそ分け」
かごを純一に渡してかけられていた白い布を取ると中にはたくさんのイチゴが入っていていい香りがただよってきた。
「イチゴか。まだ少し早いんじゃないか?」
「ハイス栽培だからね。ところでこっちの可愛いお嬢さんは?」
皐月と視線がぶつかった春菜は慌ててペコリとお辞儀をした。
「うちの従業員さんだよ」
「従業員? それにしては見ない顔だよね?」
「新しい子なんだ」
さっきから純一は砕けた言葉使いをしている。
診療所の先生と同じくらいに、気のおけない存在なんだろう。
「へぇ! はじめまして。私は隣の吉田旅館の若女将、皐月よ」
そう言って右手を差し出されたので、おずおずと握手を交わす。
皐月の手は思っていたよりもしっかりとしていて、春菜の手を包み込んだ。
裏口から中へ入るタイミングでこちらへ駆け寄ってくる足音が聞こえてきて、春菜と純一は同時に立ち止まり、振り向いていた。
「純一、八百屋さんから果物もらったんだよ」
大きなかごを両手で抱えて小走りでやってきたのは純一と同い年くらいに見える女性だった。
淡いピンク色の着物が月に照らし出され、その着物には純一の着物と同じような家紋が入れられている。
「皐月」
純一が声をかけると皐月と呼ばれたその人は春菜たちの前で足を止めた。
「はいこれ、おすそ分け」
かごを純一に渡してかけられていた白い布を取ると中にはたくさんのイチゴが入っていていい香りがただよってきた。
「イチゴか。まだ少し早いんじゃないか?」
「ハイス栽培だからね。ところでこっちの可愛いお嬢さんは?」
皐月と視線がぶつかった春菜は慌ててペコリとお辞儀をした。
「うちの従業員さんだよ」
「従業員? それにしては見ない顔だよね?」
「新しい子なんだ」
さっきから純一は砕けた言葉使いをしている。
診療所の先生と同じくらいに、気のおけない存在なんだろう。
「へぇ! はじめまして。私は隣の吉田旅館の若女将、皐月よ」
そう言って右手を差し出されたので、おずおずと握手を交わす。
皐月の手は思っていたよりもしっかりとしていて、春菜の手を包み込んだ。