京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「はじめまして、高橋春菜です」


「この旅館ではいないタイプの従業員さんね？」


皐月にマジマジと顔を見られてたじろいでしまう。


「あぁ。少し事情が違うんだ」


「事情？」


「もういいだろ。イチゴサンキューな」


そう言って追い返そうとしても皐月は春菜に興味を抱いたようで帰ろうとしない。


「どこから来た子？　どうして旅館で働こうと思ったの？」


と、次々と質問をしてくる。


純一が春菜の前に立ってガードしようとしたとき「大丈夫です。私、ちゃんと説明します」と、春菜は言っていた。


本当はこの旅館の人たち以外に自分のことを話すのは抵抗があったけれど、純一の態度を見る限りこの皐月さんは悪い人じゃない。


純一さんとかなり仲がよくて心を許し合っているのがわかった。


「実は私記憶喪失なんです」


突然の説明に皐月さんは目を丸く見開いた。


春菜はここで叩くことに至った経緯をできるだけ丁寧に説明した。


そうすることで自分の頭の中も整理されていく気がする。


「なぁるほど。それで住み込みで働いているわけかぁ」


皐月は顎をさすりながら頷く。


その仕草は名探偵みたいだ。
< 54 / 125 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop