京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「ちょっとこちらへ」
純一はそう言うと春菜に背を向けて黒田と名乗った男と2人で話をはじめた。
きっと春菜のことを話しているのだろう。
内容がきになったけれど、近くのベンチに移動するだけで精一杯だった。
頭痛は未だに続いていて、思い出したくない過去を無理矢理ほじ繰り返されているような気分になる。
しばらく待っていると純一がひとりで戻ってきた。
「体調はどうですか?」
「もう大丈夫です。あの、ソフトクリームごめんなさい。結局捨てることになっちゃって」
どろどろになったソフトクリームはさすがに食べることができなくて、ゴミ箱に捨ててしまったのだ。
「気にしないでください」
「あの、男の人は?」
「もう帰りました。確認ですが、春菜さんは本当のあの男性のことを知らないんですよね?」
春菜は頷いた。
元々知らないのか、それとも思い出していないのかはわからない。
けれど今の春菜の記憶の中にあの人物がいないことは確かだった。
「わかりました。じゃあ、戻りましょう」
手を差し出されて春菜はそれを掴む。
最初はおずおずしていた行為だけれど、何度も手をつないだり頭を撫でられたりしている間にすっかり慣れてしまった。
同時にこの手が自分から離れていくことがあったらと考えると怖くてたまらない。
純一には皐月さんがいることはわかっている。
だけど今だけは、こうしていたい。
春菜はギュッと強く純一の手を握りしめて、純一もそれに答えるように手を握り返したのだった。
純一はそう言うと春菜に背を向けて黒田と名乗った男と2人で話をはじめた。
きっと春菜のことを話しているのだろう。
内容がきになったけれど、近くのベンチに移動するだけで精一杯だった。
頭痛は未だに続いていて、思い出したくない過去を無理矢理ほじ繰り返されているような気分になる。
しばらく待っていると純一がひとりで戻ってきた。
「体調はどうですか?」
「もう大丈夫です。あの、ソフトクリームごめんなさい。結局捨てることになっちゃって」
どろどろになったソフトクリームはさすがに食べることができなくて、ゴミ箱に捨ててしまったのだ。
「気にしないでください」
「あの、男の人は?」
「もう帰りました。確認ですが、春菜さんは本当のあの男性のことを知らないんですよね?」
春菜は頷いた。
元々知らないのか、それとも思い出していないのかはわからない。
けれど今の春菜の記憶の中にあの人物がいないことは確かだった。
「わかりました。じゃあ、戻りましょう」
手を差し出されて春菜はそれを掴む。
最初はおずおずしていた行為だけれど、何度も手をつないだり頭を撫でられたりしている間にすっかり慣れてしまった。
同時にこの手が自分から離れていくことがあったらと考えると怖くてたまらない。
純一には皐月さんがいることはわかっている。
だけど今だけは、こうしていたい。
春菜はギュッと強く純一の手を握りしめて、純一もそれに答えるように手を握り返したのだった。