京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
☆☆☆

それからはいつもどおり清掃業務を行いっていた。


戻ってきた記憶に惑わされて前のようにミスしないよう、できるだけ黒田のことを頭から追い出して懸命に仕事をする。


「今日は一段とキレイですね」


清掃を終えた客室を見て純一が言う。


「ありがとうございます」


額に浮かんできた汗を手の甲で拭って微笑んだ。


「なにか心境の変化でもありましたか?」


その質問にどきりとしたけれど、無言で左右に首を振った。


もしも黒田とのことを思い出したと言ったら、ここを追い出されてしまうかもしれない。


そんな恐怖心が浮かんできてしまったのだ。


「そうですか。なにか変わったことがあったら、すぐに言ってくださいね」


「わかりました」


純一に隠し事がある後ろめたさに胸が痛んだが、春菜はそう答えたのだった。
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