京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
ここ、旅館だったんだ。


どうりでオシャレなはずだと、もう1度室内を見回してみる。


寝かされているベッドの横に同じベッドがもう1つ置かれていて、男性が着ている着物と同じ藍色のシーツがかけられている。


ベッドの真ん中に置かれているサイドテーブルは古民家なんかに置かれていそうな重厚感ある日本家具。


隣の部屋との隔てである襖には風神雷神の絵が描かれている。


明らかに客間だとわかり、慌てて上半身を起こす。


こんな素敵な部屋、私が寝るために使うわけにはいかない。


「なんだかすっかりお世話になってしまってすみませんでした。あの私、もう大丈夫そうなので、帰ります」


「帰るって、どこにですか?」


「それは……」


説明しようとして、言葉に詰まった。


名前も思い出せない状態でどこかへ帰ることなんてできるわけがない。


でもなにか答えなくちゃ。


そう思えば思うほど焦り、何かを少しでも自分の情報を思い出そうと必死になってしまって、また頭痛が始まった。


頭を抑えて痛みに耐えていると、冷たい手が私の額に触れた。
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