きみの瞳に、

「おまたせ」


そう言うと、少し恥ずかしそうに、躊躇いがちな瞳で俺を見つめてくる。そんな表情さえもすごく可愛くて、やっぱり好きだ、と何度でも思ってしまう。


「あの、」

「仁科さん、雨、好き？」

「あ、め？」

「ん、……あ、お菓子の方の “あめ” じゃなくて、空から降ってくる方の、“あめ”」

「うーん、好き、かなぁ……？」

「ふはっ、疑問形？」

「う、ん、だって、嫌いじゃないけど、好きかって聞かれると、答えに困る、かな」


他愛も無い話に聞こえるように、話題を、誘導する。

俺が、一番聞きたかった、その話に……。



「じゃあさ。いつも雨を眺めながら、何を思ってるの……？」



どんな返事が返ってくるのか、と言う怖さはもちろんある。この質問に『好きな人を想ってた』なんて返事が返ってくることをもう何度も想像して、そのたびに勝手にひとりで自滅してきた。

だけど、それは、“想像” でしかない。

本当は、本物の仁科さんは、一体何を思って雨を眺めていたのか、やっぱりどうしても知りたかった。


校舎の廊下を歩いていた時より、お互い傘を広げている分、距離が遠く感じる。とても寂しく感じてしまうけれど、これは、今の俺と仁科さんとの心の距離を端的に表しているようにも思う。