きみの瞳に、
俺が仁科さんを見ると、俺の視線の気配に気付いたのか傘を少し傾けて俺を見上げた。彼女と俺の視線が絡まる。
ただそれだけのことに酷く心が落ち着かなくなって、血液が身体中をもの凄い早さで駆け巡り始める。
俺はいま、いつも通りの顔が出来ているだろうか。ドキドキしすぎて、どうしようもない。うまく取り繕えている自信がない。
「……えっ、と、特にたいしたことは、なにも……。ただ、」
「うん、ただ?」
「音を、聞いていて……」
「……音?」
「うん。雨の強さによって、音が違うから、面白くて……」
俺は彼女の返事に、思わず目を丸くした。あまりの驚きに、きっと、いやかなり、ビックリした顔をしているに違いない。
そう、か。そう、なんだ。
彼女の言葉を理解して、嬉しさのあまり、思わず頬が緩んでしまう。
「音、かぁ、なるほどね……」
「え、ごめん、私、変なこと言ったかも……」
「ううん、全然、変じゃない」
ほんとに全然、変じゃない。むしろ、仁科さんらしい気がするし、ありがとう、とさえ思う。
「変じゃないよ」
俺はもう一度そう呟いて、仁科さんの少し戸惑っている瞳を見つめた。