きみの瞳に、
結局その時は彼女が何を見てあんなに嬉しそうだったのか分からないまま、俺はそのクラスの教室を後にした。
同じクラスではないので、滅多に見かけることもない。その頃はまだ名前すら知らなかった。
だけど俺の心の中は、なぜか一瞬で彼女でいっぱいになってしまったのだ……。
その後、彼女を一目見たいがために何度か隣のクラスを訪れたことがある。
誰かに名前を尋ねれば良いのかも知れないが、俺が彼女を気にかけていることを知られるのが嫌で、あえて誰にも尋ねることはしなかった。
その結果、いつまでも彼女の名前を知らないままだった。
その時の俺は、名前を知ることはそんなに重要じゃなかった。だって俺が本当に知りたかったのは、“あの時彼女は何を見ていたのか” と言うことだったから。
雨の校庭に、何があるんだろう?
彼女の目には、何が映っているんだろう……?
答えを知らないまま、季節だけが過ぎていく。気持ちだけがどんどん大きくなっていく。
雨の日を選んで彼女のクラスを訪れても、必ずしも彼女がひとりで外を眺めているわけでもない。友達と話をしていたり、教室にいない時だってあった。
――やっぱり俺は何も知らないままだった。