10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
しかも真剣に読みすぎて、先生が帰ってきたことにも全く気づかなかったのだ。
私はどうしていいのかわからずに慌てふためくと、
「ちがっ、違って……! 違うんですぅううう!」
そう言うと泣けてきた。先生は私を抱きしめると、
「なんで泣くの? 泣くことじゃないでしょ」
と嬉しそうな声を出して、私の背中を撫でる。
(先生は、なんで嬉しそうなのよ!)
「だって……! 恥ずかしいでしょぅ!」
私が泣きながら言うと、先生は苦笑した。
「親に見られたくない本見られた中学生でもそんな反応しないだろうな」
「ふぇ?」
意味が分からない。
先生は、ただの教科書でしょ? と言うと、私の前で、ぱらぱらとそれをめくる。
―――そう、私が読んでいたのは、以前持って帰ってきていた保健体育の教科書で、先ほどまでその中の『とある単元』を熟読していたのだ。