10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 先生がいまピタリと手を止めて『とある単元』を見ていることがものすごく恥ずかしい。それより私が真剣にその『とある単元』を見ていたことを知られただろうことも分かって恥ずかしい。恥ずかしくて死にそうだ……。

 なのに先生は終始ご機嫌な様子で笑っていた。

「あはは、懐かしいな。保健体育って」
「は、はいぃいい…」
「それにしても果歩の教科書、きれいすぎない? ちゃんと勉強してないでしょ」
「だ、だって全然興味なくて……あ、で、でも、スポーツのところは覚えてます」
「だろうな」

 先生は言う。その言葉に顔を上げると、先生は目を細めて私を見ている。

「今は他の単元にも興味出てきた?」
「うぅ……」

 もう、これなに? 何の拷問? 羞恥心が高まりすぎて、さっきから涙が止まらない。
 でも、先生はやっぱり嬉しそうに笑うと、私の頭を優しく撫でる。

「俺は嬉しいよ? 心配してたんだ。この前、果歩を怖がらせるようなこと言っちゃって、もしかしたら、頑なに『そういうこと』にまた目を背けるかなぁって」

 そう言われて、私は下を向いた。
 恥ずかしさがぐちゃぐちゃに混ざって、唇をかむ。

「果歩? 大丈夫だから。恥ずかしい事じゃないって。自分ごとに捉えて、気になっただけでしょ?」

 先生の優しい声に、思わず私は顔を上げて叫んだ。

「そうですよ! や、大和先生のせいだもん! 私、こんなの興味なかったのにぃぃいいい!」

 大和先生はまた私を抱きしめると、背中を撫でて言う。

「うん、そうだよね。ごめん。俺のせい」

 そう、あっさり謝った。

(先生、なんで謝るの。私の逆ギレだし、先生だってずっとそんなキャラじゃなかったじゃん……)

 そんなことに気づくと、余計に恥ずかしく思える。
< 101 / 333 >

この作品をシェア

pagetop