10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 私がやっと落ち着いてきた時、先生は私を見るとすこし意地悪く笑った。

「俺が一から教えてあげようか? 他もだけど、保健体育もいつも点数良かったよ?」
「い、いらないです! っ、ひゃん!」

 先生の手がするりと頬を撫でる。
 私はいつも以上に驚いて反応してしまった。

 ……と言うのも、たぶん、あの教科書のせいだ。あれのせいでなんだか変に大和先生を意識してしまう。


 先生はそんな私を見て満足そうに笑うと、

「おたまじゃくしみたいなものを飲む、だったけ?」
と言い出す。

「ふぇ……また意地悪言って……」
「ちがった?」

 先生は意地悪く笑って首を傾げる。
 私は唇を尖らせると、

「どうやら飲まないし、肉眼では見えないようです」
「だね」

(知ってたなら教えてよ!)

 そうは思うが、あの時、教えられても困っただろう。


 ただ、私は少しほっとしていた。

「でもよかったです。私、白魚とか苦手なんです」
「白魚って……どんなサイズだと思ってたの。そんなの人間からたくさん出たら気持ち悪いじゃん」
「まぁ確かに」

 先生の言葉に、私も思わず笑った。
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