10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「そうだ、果歩」
先生はスーツのポケットから赤い小さなセロファンの包み紙を取り出すと、そのまま中身を取り出し、私に、あーん、と言う。
訳が分からないまま私は首を傾げて、先生を見る。先生はまっすぐ私を見ると、ほら、ともう一度口を開けるように言った。
ゆっくりと口を開けると、先生は私の口に手の中にあるものを入れる。
その瞬間、甘い味が口いっぱい広がった。
「な、なに? 甘い……」
「イチゴ味のラムネ」
先生はまっすぐ私を見て言う。
(……確かにそうだ)
私がそれをもぐもぐ食べながら先生を見る。
その瞬間、昔の思い出がよみがえる。
小さなときも、こうして先生は私にこれをくれたことがある?