10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「そういう事って?」
「果歩ちゃんのことがずっと好きだったんだろうなって」
そう言われて私は手を胸の前で横に振る。
「まさか! もし、好きになってくれたなんてことがあるなら……あの日です。最初に大和さんと病院長のお宅を訪ねたあの日」
あの、間違って暗示をかけた日だ。
病院長はきょとんとした表情をすると、ははは、と笑う。
「そうじゃないと思うよ。最初にそうかなって思ったのは、ずっと前だったし」
「ずっと前?」
私が言うと、病院長は頷いた。
「果歩ちゃんのお母さんのお葬式の時。果歩ちゃんを説得したの、大和だっただろ?」
私の両親は同時期に亡くなったのではなく、私が5歳の時に父を肺がんで亡くし、その8年後に母を事故で亡くしている。
母のお葬式の日……。私は中学生で、大和先生もまだ大学生だったはずだ。
あの日のことは全然覚えていない。気づいたら、私は成井家に迎え入れられていた。