10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
最後の方、無我夢中で全然覚えてないけど……。先生をじっと見て聞く。
「よ、よくわからないんですけど、さ、最後までしたってこと、ですか?」
「あはは、ちょっとそれは……すぐは無理かな」
大和先生は困ったように笑った。その顔を見て泣きそうになる。
「わ、私のせいですか? 私がうまくできなかったから」
「ううん、全くそんなことない。でも、そのまま無理して押し進めたら、果歩が痛い思いするからね」
「……私が?」
先生はそうだよ、と頷くと私の頬に優しく触れた。うっとりとするような暖かな手のぬくもりが伝わってくる。
すると先生は口を開いて、
「果歩の事ずっと好きだったから、最後の最後で焦りたくないんだ」
確かにそう言ったのだ。