10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 私はきょとんとして先生を見る。

「ずっと……?」
「うん、果歩と成井総合病院で再会した時にはもう」

 大和先生と病院で、仕事を介して再会したのは、確か2年ほど前だ。

「それって……かなり前ですよね」
「そうだよ?」

 先生は当たり前のように頷く。

「でも……私への態度もずっと怖かった」
「それは……」

 先生は少し言葉に詰まると続ける。「どういう態度を取ればいいのかわかんなかったんだ」

(これはどういうこと? 嬉しいけど……すごく嬉しいけど……)

「あの! わ、私が最初に『女の人と真剣に付き合うこととか、結婚することとかちゃんと考えてみてくれませんか?』って言ったこと……覚えてます?」
「もちろん覚えてるよ。きっとこの子は、はっきり言わないと分かんないんだろうなぁって思ったから強硬手段に出た」
「強硬手段」
「そう」

 そう言うと先生は楽しそうに笑った。
 私はそんな先生の言葉に拍子抜けする。

「じゃ、じゃあ、暗示にかかってたわけじゃなかったの……」
 思わずつぶやくと、先生はきょとんとした様子で、
「暗示? そんなものないよ」
とはっきりと言った。

「でもいつも私のお願い聞いてくれてましたよね」
「好きな子のお願いくらい誰でも聞くと思うけど?」
「好きな子……」

 またはっきり言われて言葉に詰まる。
 先生、本当に私の事好きって思ってくれてたんだ……。
< 128 / 333 >

この作品をシェア

pagetop