10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「そういえば、島原先生! あれ、嘘だったんでしょう! 私、わかっちゃいましたから!」
「え……? 何のこと?」
「暗示のこと!」
私が言ってもピンとこないように島原先生は珍しく少し戸惑い、
「あ、あぁ。そのこと」
と言う。
「大和先生、暗示になんてかかってなかったじゃないですか!」
「大和がそう言ったの?」
少し驚いたように島原先生は言う。
「はい」
「そっか」
「もう! 私、暗示かけられるなんて本気にしちゃったじゃないですか! この前、はじめて大和先生以外に暗示かけてみたら、目を見ても暗示かけられなかったんです。それ、やっと腑に落ちました」
私がむくれて言うと、島原先生は苦笑した。
「果歩ちゃんは何でも信じやすいからね」
「またバカにして」
「バカにしてるわけじゃないんだけどね」
そう言って島原先生は困ったように笑うと、私の頭を撫でる。
「大和とうまく行ってる?」
「……はい」
「よかった」
島原先生はまた笑って私を見ていた。
島原先生は私のことよくからかってくるけど、本当は優しい先生だってことは知っていた。
だから、動物にも人にも好かれるんだよね……。