10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 その次の瞬間、島原先生はゆっくり顔を近づけてくる。それはまるでスローモーションのように見えた。

 私は驚いてそれを呆然と見ていたけど、一瞬で我に返る。そして、島原先生の身体をどん、と強く押した。

「し、島原先生!」

 思いっきり声を上げた時、島原先生はぴたりと途中で動きが止まる。
 そして目を瞑って次に目を開けると、きょとんとした様子で私を見た。

 島原先生が目をパチパチとさせて、もう一度目があう。それから慌てたようにズザっと私から跳ね退いた。

「わっ……! か、果歩ちゃん……!」

 見たこともないくらい戸惑う島原先生に、私も戸惑う。

「島原先生?」
「ごめん、僕。まさか……」

(戸惑ってるのはこっちなんだけど……)

 そう思って島原先生を見ていると、先生は少し落ち着き、それから深呼吸して私の方をまっすぐ見た。
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