10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「大和とは、うまくいってるんだよね? もう暗示じゃなかったってわかったんだよね?」
「はい」
「……大和とはもう寝た?」

 突然そんな質問をされて、私は首を傾げて島原先生を見る。

「ね、寝る? 夜は同じベッドですけど」

 寝るときは同じベッドだ。とはいっても、大和先生は深夜の緊急の呼び出しが多くて朝にはいないし、夜は遅くまで起きていることが多いので、一緒に寝ているような実感はあまりない。でも、あれは寝ていると言えるだろう。

 そう思って返事をすると、島原先生は「そう……」と呟いただけだった。
 島原先生の様子がなんだかおかしいけど……。理由もよくわからなくて私は首を傾げる。

「あ、病院長まだかな。見てきます」
「そうだね」


 私が去った後の部屋で、島原先生はまた頭を掻いて、

「僕ももう果歩ちゃんのこと、諦められてると思ってたよ……」

と呟いていたことは、私には知る由もなかった。

< 138 / 333 >

この作品をシェア

pagetop