10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「目じゃないかと。昔から目が合えば、野良猫とか、散歩してる犬とか、ハトとか……近寄ってきてくれるんです」
「目?」
「はい、10秒目が合えば大抵は大丈夫です」
私が言うと、島原先生は目を輝かせて、私の手を取る。
「なにそれ、おもしろい!」
「……って、これ、普通じゃないんですか」
「普通じゃないよ」
そう言って、少し考えると口を開いた。「それってさ、人に対しては使えないの? 催眠術みたいに、人に言う事聞かせるって感じで」
思わぬことを言われて、私は顔を上げる。
「人……? やったことないですけど……」
「例えば僕に使ってみてよ」
(そんな気軽に……。ファンタジーじゃあるまいし……)
私は眉を寄せて島原先生を見た。
「どうやって?」
「何かお願いして、僕の目を10秒見てみてよ」
「えー……」
「いいから。お願い!」
「はぁ……わかりましたよ。無理だと思いますけど」
私はつぶやくと、この茶番劇を早く終わらせようと思って、きょろきょろとあたりを見渡す。目線の先に自動販売機を見つけて、ちょうどいいとそれに決めた。