10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「そこの自販機のグレープソーダが飲みたいです。買ってきてください」
こんな恥ずかしい実験させられて、これくらいのお駄賃は許されるだろう。そう思って、そう言うと島原先生の目をまっすぐ見る。
(1,2,3,4……)
先ほどの猫相手と同じように、目を合わせたまま心の中でカウントを始めた。
(7,8,9,10)
10秒経っても島原先生は動かない。
(そりゃそうだよ。こんなバカなことできるはずないじゃん……)
「ほらもう、なにもないじゃないですか。もう私、仕事に戻りますよ」
少し恥ずかしくなってその場を去ろうとしたとき、島原先生が呆然としたような顔で、
「……買ってくる」
と言って、急に走り出した。
(え……! えぇ……⁉)