10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 意味が分からず島原先生の背を目で追う。島原先生は猛烈な速さで自販機の前まで行くと、すぐにグレープソーダを買って戻ってきた。そしてその缶を私の手に渡す。

「どうぞ」
「じょ、冗談ですか? 冗談ですよね……?」

 その缶を受け取り、思わずつぶやく。

「……え。なにが……」
「島原先生?」

 そのとき、島原先生はハッと我に返ったような顔をして、

「なんか……身体が勝手に動いて……」
と口走った。

「いや、それはさすがに嘘でしょう!」
「いや、ちがってさ! なにこれ! こわっ!」

 島原先生は本当に震えている。

(嘘? ホント……?)

「え、えぇ……! 本当なんですか⁉ まさか……!」

 私が言うと、島原先生は慌てた様子で言った。

「いや、これは……本当。すごいよ。でも……果歩ちゃん本人もわかってなかったくらいなら、人には極力使わないほうがいいと思う」
「……そうですね。ま、こんなこと、使うときもないでしょうけど……」

 そう言ったのが一か月前。
 しかし私はひっそりと何度も使っているというわけだ。『あの』大和先生相手に……。

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