10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「そんな悲壮な顔、しないでよ。よかったじゃない」
「……はい」
麻子さんにそう言われて、『よかった』ことなんだよね、と頷く。
だって、そうしたことで、前よりも大和先生を近くで感じていられる気がしていたし、今まで知らなかった大和先生のことも知れた気がした。
あまり知りたくなかった側面もあったけど……。
(普通はあれだけ一晩で何回もするものなのだろうか……?)
気になったけど、麻子さんに聞くのはやめておいた。
それは、大和先生がそういうことは自分に聞くように言ってたことを思い出したからだ。
今度大和先生に聞いてみようと決意する。
すると麻子さんは苦笑し、目を細めた。
「痛かった?」
「ほんの少し……でもほとんど痛みは覚えてません」
「うん、さすが大和先生だわ。一か月慣らした甲斐があったというか……なんとういうか」
「へ?」
麻子さんは時々分からないことを言う。
きっと産婦人科の看護師なので、普通の人が知らないこともたくさん知っているのだろう、と思った。