10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
ちょうどその時、島原先生が通りかかって、
「果歩ちゃん、何、その顔……。逃走中の犯人でも見つけた?」
「……医師が嘘をつくことってあるんでしょうか……」
私が言うと島原先生は一瞬困ったような顔になったけど、
「結構あるんじゃない?」
とさらりと言った。「ほら、家族からの希望で病気を隠しておいてほしいとか、色々ね。それ、いちいち顔に出して悟られてちゃいけないでしょ」
「まぁ……確かに」
「個人的には、嘘がつけない人は医師には向かないと思うよ」
「島原先生も、嘘つくんですか」
「そうだね。僕は結構嘘つきかも」
にっこり笑って島原先生は言う。島原先生はいつも笑顔すぎて逆にその真意が掴めない。
島原先生が言うと『自分は嘘つき』という言葉すら嘘に思えるから不思議だ。
「……またからかってます?」
「あはは。どっちだろうね」
島原先生は楽しそうに笑うと、また子どもにするみたいに私の頭を軽く叩いた。