10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
そう思っていると、先生は耳元まで唇を寄せて、
「夫が信用できないなんて悪い子だな」
と低い声で言った。
「ひゃうっ!」
そうされると息が耳にかかって、変な気分になる。
さらに、絡められた指に力が入って、そのまま強い力で手が繋がれた。
「あの……やっぱり、恥ずかしいんで離してください」
「ほら、周りのカップル見てみて? みんなしてるよ」
大和先生が前を向いて言うと、私は周りを見渡す。
全員ではないにしても、多くのカップルが同じような手の繋ぎ方をしていた。
私は毒気が抜かれたように口を開け、「……ほんとだ」と呟く。
先生の顔を見上げると、先生は苦笑して言った。
「信用してもらえた?」
「はい。ごめんなさい」
「そうやって素直に謝れるの、果歩のいいとこだよね。でも、もう俺の言うこと、疑っちゃだめだよ?」
「はい」
私は頷くと大和先生の顔を見る。
先生はこういうこと、嘘ついてなかったんだなぁ、とやけに納得していた。病院で聞いた話もきっと聞き間違いか何かだったのだろう。