10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「じゃ、かんぱーい!」
島原先生の号令で、4つのビールグラスがぶつかる。
その日の夜、私たちがいた場所は病院近くのダイニングバーだった。
私の目の前に座っているのは、相変わらず不機嫌な大和先生。大和先生の横には、振られても大和先生が好きだという強メンタルで美しい看護師である花菱麻子さんが座っていた。
「今日、3人じゃなかったの」
「ちょうど2:2でいいじゃない」
不機嫌な大和先生の低い声に全く動じない様子で島原先生は返す。私は斜め前の麻子さんを見て、声をかけた。
「あ、麻子さんは、永山病院の看護師さんなんですよね?」
「うん。婦人科にいるから、困ったことあればいつでも来てね」
麻子さんは私の方を見てにこりと優しく笑い、私はその笑みに一気に絆された。
こんなきれいなお姉さん……憧れる。大和先生と結婚したら、仲良し姉妹みたいな感じになれるだろうか。
会って早々、麻子さんにアドレスを聞かれた私は喜んでそれに答えていた。
「今度一緒に買い物でも行こうね」
と微笑まれれば、嬉しさのあまり上ずった返事をしてしまう。
その瞬間、隣にいた大和先生の顔がちらりと見えて、一気に現実に引き戻された。
(でも、大和先生はなぜかすっごい怒ってる!)