10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
23章:知らない暗示と思い出したこと
―――土曜は最高のデートだった。
次の週、そんなことを思いながらずっとニヤニヤしてしまっていると、私のデスクに病院長が予定を確認しにきた。
私は予定をつげ、そのあと少し雑談をする。今日は少し病院長のスケジュールがいつもより緩やかだ。
その時、病院長は私のデスクの上にある小瓶を見つけると、
「これ、懐かしいね」
と笑った。
そこには、ピンクのセロファンに包まれたラムネが入っている。
以前、大和先生からもらったものを、こうしてチマチマ大事に食べているわけだ。
「大和先生にいただいたんです。時々おなか減った時に食べてて。おひとついかがですか?」
「じゃあ、一つだけいただこうかな」
病院長がそう言うと、それを一つ取り出して食べる。
「今食べてみると甘いね。それにしても珍しいよね、赤いセロファンのやつばっかりなんて」
「当たり前じゃないですか。イチゴ味ですもん」
「イチゴ?」
「はい」
私が頷くと、病院長は首を傾げる。
「これ、味なんてないよ?」
そう言われて私は病院長を見る。