10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
私は息をのむ。
やっぱりあれは島原先生だったんだ。
「やっぱり……」
「あの日は、果歩ちゃんもショックが大きかっただろうし……あれからすっかりあの日のことは忘れているみたいだったから、下手に思い出させないほうがいいと思ってたんだ」
確かに、お母さんが亡くなった前後のことはあまり覚えていない。
周りは無理に思い出させようとしなかったし、自分も思い出そうとしたことはなかった。でも……。
「あの……」
「ん?」
「私、あのときの島原先生の言葉で、安心したんです。だから、この間プラネタリウムに行ったときにもやけにほっとして……。島原先生のおかげだったんだなぁって思ったら、なんだか嬉しくなっちゃいました」
私はにこりと笑った。
私は、成井家に救われて、こうして今いられていると思っていた。自分には成井家しかないと思ってた。
だけど、私の周りには他にも自分を気遣ってくれてた人がちゃんといて、自分を大事にしてくれていたことを思い知って……それがやけに嬉しかったのだ。
しかし、島原先生は目線をおとす。
「なんで、そういうこと思い出しちゃうんだろうね。このタイミングで」
「え?」
顔を上げると、真剣な島原先生の表情。
「僕は、今も、同じことを思ってる」