10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
慌てて目をそらして、目の前のビールを一気に煽る。
「いい飲みっぷりだねぇ」
島原先生は楽しそうに笑ってお代わりを頼んでくれた。「なんだかんだ初めてだよね。こうやって飲むの」
私はそれに頷いたが、大和先生はさっきから不機嫌な様子で、頷くこともせず、ゆっくりビールを飲んでいる。私はそれを見て、隣に座っている島原先生に耳打ちした。
「すでに大和先生、すんごい怒ってますよぅ……!」
「えーそう? あれが普通でしょ」
「まぁ確かにそうですけど……」
またちらりと見たら、やっぱりすごく不機嫌そうに大和先生はそこにいた。
(なんかすでに失敗っていうか、さらに怒らせてるというか……)
大和先生は忙しい人だ。
診療だけでなく、時間さえあれば勉強している姿を見ていた。そんな人の時間をこんなことで取ってしまって、怒っているのは当たり前かもしれない。
そう考えて泣きそうになったところで、お代わりのビールがやってくる。それをやけっぱちで煽った時、島原先生は、
「果歩ちゃんあれだよね。今まで、彼氏とかいたことないの?」
「ぶぅっ!」
思わず吹き出した。「と、と、突然なんて質問を……!」
「えぇ、いいじゃん。せっかくプライベートで飲みにきてるんだしさ。はい、これ飲んで」
とさらに次のものまで進めてくる。
「へ? あ、はい」
島原先生のペースに乗せられて、私はそれに口をつけると、すでに三杯目になっているせいか、頭がクラリとした。