10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 慌てて目をそらして、目の前のビールを一気に煽る。

「いい飲みっぷりだねぇ」
 島原先生は楽しそうに笑ってお代わりを頼んでくれた。「なんだかんだ初めてだよね。こうやって飲むの」

 私はそれに頷いたが、大和先生はさっきから不機嫌な様子で、頷くこともせず、ゆっくりビールを飲んでいる。私はそれを見て、隣に座っている島原先生に耳打ちした。

「すでに大和先生、すんごい怒ってますよぅ……!」
「えーそう? あれが普通でしょ」
「まぁ確かにそうですけど……」

 またちらりと見たら、やっぱりすごく不機嫌そうに大和先生はそこにいた。

(なんかすでに失敗っていうか、さらに怒らせてるというか……)

 大和先生は忙しい人だ。
 診療だけでなく、時間さえあれば勉強している姿を見ていた。そんな人の時間をこんなことで取ってしまって、怒っているのは当たり前かもしれない。

 そう考えて泣きそうになったところで、お代わりのビールがやってくる。それをやけっぱちで煽った時、島原先生は、

「果歩ちゃんあれだよね。今まで、彼氏とかいたことないの?」
「ぶぅっ!」

 思わず吹き出した。「と、と、突然なんて質問を……!」
「えぇ、いいじゃん。せっかくプライベートで飲みにきてるんだしさ。はい、これ飲んで」
 とさらに次のものまで進めてくる。

「へ? あ、はい」

 島原先生のペースに乗せられて、私はそれに口をつけると、すでに三杯目になっているせいか、頭がクラリとした。
< 21 / 333 >

この作品をシェア

pagetop