10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「かわいいから、告白されたことくらいあるでしょ」
気を使ってなのか、麻子さんはそんなことを言う。麻子さん、優しすぎる。まさに天使だ。
「あ、あるはずないですよ。全然モテないし」
「モテない、ねぇ」
そう呟いて、島原先生は苦笑していた。
逆に自分から好きになる人もいなかったが、告白されればきっと付き合っただろう。
「少女漫画とかは読んでたし恋愛には憧れてますけど……私はモテないし、できないものは仕方ないです」
「知識少女漫画って……。さすがに、子どもをコウノトリが運んでくるとか思ってるわけじゃないでしょ」
島原先生がからかうように言う。
「さ、さすがにそれくらい知ってますよ!」
(まぁ、眠すぎて保健体育の授業内容曖昧だけど……クラスの男子が話してたのをほんのり聞いたことあるし!)
前から思ってたけど、島原先生はいつだって私を子ども扱いしている気がする。そのたびに、私はつい子どもみたいにムッとして言い返してしまうのだ。
「あはは。だよねぇ。安心した」
「あれですよね。オタマジャクシみたいなの飲んだらできるんですよねっ」
「「ぶっ……!」」
目の前で静かに飲んでいた大和先生が突然吹いた。ついでに隣の麻子さんまで同時に吹き出す。すでに二人は息ピッタリだ。
島原先生は苦笑しながら、
「なにそれ。ホラー映画か何か? それとも寄生虫?」
と言って、大和先生と麻子さんにおしぼりを渡すと、「『誰かさん』のせいで、知識全くないじゃん。どう責任取るつもりなんだろうね」と訳の分からないことを言っていた。