10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「どうしたの?」
「いや……」
私がつぶやくと、病院長は苦笑した。
「まぁ、こんなおじさん相手だもんね。話しにくいよね」
「そんなことないですけど……」
「でも、なんとなくはわかってるつもりだよ。これでも自称果歩ちゃんの父親だし」
病院長はそう言うと、優しいまなざしで私を見た。そして微笑んで口を開く。
「島原先生になにか言われたかな」
「ふぇっ!」
(なんでわかった!)
そう思って慌てると、病院長は「そうだ。コーヒー飲みたいね」と笑った。
「い、淹れてきます」
「じゃ、果歩ちゃんの分も淹れてきて」
「え?」
「どのみち果歩ちゃんはもう終業時間でしょ? 少しだけ付き合って」
私がはい、と頷くと、病院長は目を細めて笑った。