10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
二人分のコーヒーを淹れて、病院長室に行くと、病院長は応接セットのソファに座っていた。
促されて私も病院長の前に座ると、二人でコーヒーに口をつける。
「果歩ちゃんが淹れてくれたコーヒーは味がいつも違って面白いよね」
「あ……色々豆を買ってきてて。時間とか、疲れ具合とか、香りとか……なんとなくだけど考えて淹れてみてるんです」
「だからどんな時も新鮮でおいしいって思うんだね」
「ありがとうございます」
「果歩ちゃんって、素直でまっすぐだからさ……誰に言われなくても、相手のことを考えてそういうことが当たり前にできちゃうのかもね」
「そんなことないです」
思わずそう返していた。
私が『素直でまっすぐ』だなんてありえない。
そもそも大和さんと結婚した理由だって、恋愛で好きになってデートしてから始まったようなことじゃないんだから。私のわがままで振り回したようなものだ。
それに島原先生だって気づかないうちに傷つけていたかもしれない。