10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
私がそのまま玄関に立ち尽くしていると、大和先生が、ほら、と促し私の靴まで脱がす。
私はそれ以外は黙ったままの大和先生に不安になって、泣けてきた。
「ふぇ……お、怒ってますか?」
「何に?」
「今日の、こと……」
私が言うと、大和先生は息を吐く。
その仕草にすら、胸が大きく鳴り響いて、また泣いてしまう。
「果歩に怒るわけないでしょ。前も言ったけど、何かあれば怒るのも沈めるのも島原だよ」
「やっぱ沈めるのはやめたげてくださいー……」
(前は沈んでも浮かんできそうだからいいかと思ったけど、やっぱダメ。かわいそう)
そう思って私が言うと、大和先生は不愉快そうに眉をピクリと動かして私を見た。
その様子にまた、胸がドキリとする。