10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
その日に限って、オンコールは5時間ほど鳴らなかった。
オンコールが鳴って、先生は早々に着替えながら私の横に来て、着替え終わると私の髪を取ってキスをした。
「果歩? 病院長に会ったら言っておくよ。今日は果歩お休みしますって」
「……」
そんなのどう返事していいかわからない。
というか、絶対バレるし、恥ずかしいし、お休みするなんて大和先生から言わないでほしい。
でも、数時間後に仕事に行けるような疲れ具合でもないし、なんならさっきから喉が枯れてて、掠れた声しか出ない。きっと休む連絡もできないし、頑張って仕事に行っても役にたたないだろう。八方塞がりとはこのことだ。
だからその提案を飲むしかない。それもわかって先生はそう言っている気がした。
先生は困ったように笑うと、
「だから言っただろ? 手加減できないから、って」
と悪気なんて全くないように言った。
(確かに言ってたけども……! 思ってたのと違う!)