10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「果歩」
一瞬何を言われたのか全く分からなかった。
突然大和先生が立ち上がり、私の手を取る。驚いて見上げると、大和先生の熱っぽい目が私を捉えた。
「へ……?」
「果歩、おいで」
ぐい、と引っ張って私を立ち上がらせると、大和先生はお金をテーブルに置いて、そのまま私を連れて店を出る。
「や、大和先生……?」
(ちょっと待って、『果歩』って名前を呼ばれたのも初めてで……)
驚いて腰が抜けそうになる。
握られた手から熱が伝わってきた。ぎゅう、とさらに強く手を握られ、さらに驚いた私は大和先生をまた見上げる。
先生は店を出た先の道端に立ち止まった。
そして、私の頬をすっと撫で、見たことのない笑みを浮かべて微笑む。
その大和先生の仕草に、表情に、私は驚いて固まった。その次の瞬間。
「果歩が、俺と結婚して」
たしかにそうはっきりと、大和先生は私に告げたのだ。