10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
結局、私がしたのは、お皿や食器を出すとか最低限の事。先生の手際はよく、本当にすぐに作り上げてしまった。
出来上がったチャーハンは、お店で見るようなもので、お米もパラパラしているのが見てわかる。
一口食べると本当にお店で食べていると錯覚するような味だった。
今すぐ中華料理店を開いたほうがいい。
「おいしい!」
「簡単なものだからね」
「でも、名店で食べてるみたいな味です……!」
「医学部生時代に食べた店のがおいしくてね。でもその店がつぶれちゃってさ、同じ味食べたくて、同じものばかり作って研究してたんだよ。変なとこ凝るから」
そう言って先生は笑う。
「すごいです! 本当においしいです!」
「よかった」
そんな当たり前のような会話と、学生時代の先生が食べた味を食べられていること、そして、先生のことをもっと知れたような気がして、私の口元はつい緩んでいた。