10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 食事が終わっても、オンコールはまだ鳴らなかった。
 二人で食器を洗うと、私は大和先生に、お礼にコーヒー淹れますよ、と言う。

「それより先に。果歩、おいで」

 先生はそう言って、私をソファに連れて行くとそこに座らせる。
 首を傾げると、先生は「身体、診るよ」と言った。

(そういえば、朝、そんなこと言ってましたね!)

「あれ、本気だったんですか!」
「うん。なんで嘘だと思ったの」
「……だ、だってぇ……」

 それが普通かどうかもわからないけど、先生に診察されるのって、すっごい恥ずかしいんですけど……。しかも昨日のせいで、って。

 私は慌てて手を胸の前で横に振る。

「や、やっぱり、そんなのいいですって! 恥ずかしいし!」
「だめ。ほんと昨日は加減ができなかったから。ほら、腕も……ちょっと赤くなってるね」

 先生は私の手を取って言う。
 目を向けると、全く気付いてなかったけど、手首が赤くなっていた。
< 251 / 333 >

この作品をシェア

pagetop